アカガシラカラスバトWS 結果速報

アカガシラカラスバト保全計画づくり国際ワークショップ

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2008年1月24日

アカガシラカラスバトPHVA実行委員会

 

 

■概略

 

2008年1月10日(木)〜12日(土)

小笠原諸島父島でアカガシラカラスバトの保全計画づくり国際ワークショップ(アカガシラカラスバトPHVA実行委員会/堀越和夫実行委員長)が開催された。

共催:国際自然保護連合 種の保存委員会 野生生物保全繁殖専門家グループ(IUCN/SSC/CBSG)、環境省、林野庁、東京都、小笠原村、(社)東京都獣医師会、(財)東京動物園協会、日本獣医生命科学大学野生動物教育研究機構、NPO法人どうぶつたちの病院、NPO法人小笠原自然文化研究所、野生生物保全繁殖専門家グループ日本委員会(CBSG Japan)、小笠原自然観察指導員連絡会

 

今回採用したPHVAワークショップ手法は、世界中の絶滅危惧種の具体的な保全計画を策定するために、IUCN(国際自然保護連合)SSC(種の保存委員会)、CBSG(野生動物保全繁殖専門家グループ)が提供しているもので、日本では2006年のツシマヤマネコ、ヤンバルクイナに続き3事例目の開催となった。

 

今回、保全計画づくりの対象となったアカガシラカラスバトは、世界で小笠原諸島のみに生息する小笠原固有亜種で、推定40〜60羽とも言われ絶滅が心配されている。

 

アカガシラカラスバトの保護活動については、行政や地元民間団体、動物園などで、それぞれ対策等が実施されてきたが、包括的な保全計画が無かったことから、絶滅回避に向けての筋道や役割分担が見いだされていなかった。

 

今回のワークショップでは、アカガシラカラスバトの生息する小笠原諸島(父島、母島)に住む島民、地元民間団体、地元行政機関、飼育動物園、獣医師、生態学者、中央行政機関など本種の保全活動を中心とした約120名が一同に会し、丸3日間にわたってアカガシラカラスバトの絶滅回避や本種と共生することができる島づくりについて考え、議論を重ねた※。

 

その結果、生息域内での野生個体群の保全活動や、それを補完する役割を果たす生息域外保全(飼育下繁殖)についての大方針が定まり、今後のアカガシラカラスバト保全への関係者共通の目標設定が図られた。さらに、今回の最大の特色として、地元小笠原の住民と駐在職員から68名以上もの参加者を得て絶滅危惧種と共生する地域社会づくりが話し合われた。特に、ネコ対策については種の保全のための最優先課題であることが参加者全員によって確認され、多くの具体的な行動計画が発表された。

 

ワークショップの結果は、今春を目処に最終報告書にまとめられて、広く国内外で公開される。

 

※議論では、4つのワーキンググループに分かれ、各グループにおいて課題を整理し、課題毎に保全目標を定め、具体的な行動計画を作成した。

ワーキンググループ①地域社会:アカガシラカラスバトと共存する地域社会づくり、②生息域内保全:野生個体群と生息環境、③生息域外保全:動物園における飼育下繁殖、④PVA:個体群存続可能性分析

 

 

■上位5目標とアクションプラン一部抜粋

(一部を要約・文言は未整理であるため、今後修正される文章も含まれています)

 

目標1: 飼い主のいないネコを山の中からなくす。

行動計画: 山のネコのマップ作成および個別訪問により全てのネコの実態を把握。飼い主のメリットを考慮した適正飼養推進キャンペーンの実施。飼い主の会、動物病院の設立。ネコ条例の見直し、改正の提言。計画的な山のネコ捕獲の提言。

 

目標2: 保全に必要な個体群管理を行うための生物学的知見の情報について、既存のデータを整理し、新しいデータを収集する。

行動計画: 調査方法・内容を検討するネットワークをつくる。

 

目標3: 人工飼育下から野生下へ補強(または再導入)するための指標を判断する。

行動計画: 足環標識調査を継続し、標識再捕獲法により現在の個体数と推移を把握する。情報ネットワークを構築する。地元グループから発信された情報を基に、専門家、行政機関で判断する枠組みをつくる。

 

目標4: 有害な外来種による影響の除去。原則として、新たな外来種の侵入を防止すること。

行動計画: ネズミの影響調査と被害軽減策の検討を実施。その他、ハトの生息に影響を与えていると思われる外来動物の影響調査を行う。山のネコの捕獲を検討するよう世界遺産科学委員会等に提言する。島への移入種の出入りを管理するために、複数の提案を世界遺産科学委員会等に提言する。

 

目標5: 野生個体群の危機的状況に備えるために、自己存続可能な飼育繁殖個体群を確立する。その際、野生個体群への影響を最小限に止める。

行動計画: 現在の飼育下個体群20羽を100羽に増やす。山のネコ捕獲を遅くとも20年以内に終わらせる。山のネコの捕獲終了後にファウンダー(飼育下個体群の基とするため野生下から得た個体)を飼育個体群に導入。ファウンダーは4年に2〜4羽導入。救護個体は山のネコの捕獲終了前でもファウンダーとして利用。山のネコの捕獲終了時に野生個体群の状況を科学的に検討。

 

(参考)各グループから提案された重要課題およびその改善目標一覧

課題 目標 WG
・ネコ対策 〔短期目標〕
・飼い主のいないネコを山の中からなくす
・実効性があるシステムづくり
地域社会
・ハトの生物学的知見が少なすぎるために、有効な対策を立てられない ・個体群管理を行うための生物学的知見を整理し、新しいデータを収集・分析する。 域内
・森林の変化により、現在の生息地はハトの生息に適している場所が不足している ・生息に適した森林を確保する。 域内
外来種問題
・外来種は、捕食、競争、生息地改変により、個体数を制限している
・ 更なる外来種の導入は、感染症などの新たなリスクを生じさせる可能性がある
・有害な外来種による影響の除去。原則として、外来種の新たな侵入を防止すること。 域内
・飼育下個体群の位置付けが不明確
・飼育下個体群が遺伝的・行動的に不健全
・基礎個体を確保することの野生個体群への影響が不明
・野生個体群の危機的な状況に備えるために、自己存続可能な飼育繁殖個体群を確立する。その際、野生個体群への影響を最小限に留める。 域外
・アカガシラカラスバトとハトをめぐる島民の人々についての知識・情報が不足 ・認知度100%を維持する 地域社会
・小笠原での保護施設がない ・アカガシラカラスバトの救護個体に対応できる現地での体制を確立する。 域外
・情報の共有や合意形成が不十分(域内-域外) 情報共有の改善(以下、具体的な下位目標)
・域内と域外で必要な事項を明確にできる双方向のコミュニケーションを確立する。
・誰もが理解しアクセスできる即時的な情報を発信する。
・地域内での合意形成のシステムをつくる(→地域社会WG)
域外
・情報伝達(収集)手法が不十分 ・住民主体のアカガシラ・ネットワークを作る 地域社会
・アカガシラカラスバトを保護するために世代を越えた当事者意識が不足 ・アカガシラカラスバトを見ることで当事者意識を獲得させる(各世代を網羅する) 地域社会
・人工飼育のための更なる捕獲と再導入が、現存する個体群に悪影響を及ぼす可能性がある ・ファウンダーの捕獲と補強もしくは再導入を実行するために必要な条件の把握(→域外WG) 域内
・守るためのルールが確立していない ・アカガシラカラスバトと共存していくためのルールをつくる(憲章) 地域社会
・飼育技術の確立が不十分 ・健全な飼育下個体群(自然繁殖可能な個体群)を確立・維持するために、飼育技術の改善に必要な調査・研究を確立する。 域外
・飼育下から野生への導入に関する基準や定義が不明確 ・域内保全のプログラムと連携した域外プログラムを検討する。 域外
・各種の保全事業の影響評価が不十分であることにより、生態系に与える悪影響が不明であり、限られた資源が有効に利用されていない ・各種保全事業の評価を実施し、将来計画に反映すること。 域内
・飼育下個体群が普及・教育に十分に利用されていない ・域外飼育施設(東京の動物園)において、普及・啓発・環境教育の新たな取り組みについて、機会を捉えて拡充する 域外
・人間が過剰に森林に立ち入ることで、ハトにストレスを与え、生息地利用に影響を与えている ・森林への立ち入りによるハトへの影響を緩和する。 域内
・個体数が少ない状況で、気象の変動により偶発的な絶滅のおそれがある ・気象の変動による絶滅回避のための事前・事後対策を行う。 域内
・組織やシステムが確立していない ・効果的なシステムの再点検をする 地域社会
・ハトの生態をとりまく生態系がわかっていない ・研究者層を厚くする 地域社会
・アカガシラカラスバトが経済活動と結びついていない ・アカガシラカラスバトを島の宝にする 地域社会

 

 

■関連行事

 

【島内】

・島民報告会(アカガシラカラスバトPHVA実行委員会:小笠原スタッフ)

父島:2008年1月13日、母島:2008年1月16日

・ハト祭(ハト祭実行委員会、協力:ボニンインタープリターオーガニゼーションBIO、小笠原自然観察指導員連絡会、ほか):アカガシラカラスバトの森を歩く体験ツアー、アカガシラカラスバトの森のネコ捕獲体験ツアー、パネル展、グッズ制作&販売、ハトイメージキャラクター愛称募集、千羽バト、着ぐるみハト作成

 

 

【島外】

・アカガシラカラスバト保全計画づくりワークショップについて(アカガシラカラスバトPHVA実行委員会):野生生物保護学会テーマセッション.

2007年11月17日 江戸川大学 千葉流山

・個体群モデリングのためのプレミーティング(実行委員会):2008年1月8日 日本獣医生命科学大学 東京

 

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