◆川と海を行き来する | ||
小笠原に生息する陸水動物の多くは、一生のうちの一時期を海で過ごします。大陸や他の島から、海を泳いで越えなくては小笠原までたどりつけないからです。 | ||
小笠原の河川上流 | ミナミオニヌマエビ | |
ヤマトヌマエビ | ベニシオマネキ | |
産まれたばかりのヤマトヌマエビは、浮遊幼生となって川を降り、しばらくは海域をさまよって生活します。彼らはこの時期に分散し、他の島や他の川に生活の場を広げる事ができるのです。 川と海を行き来する動物は、広い分布域を持った種が多く、ヤマトヌマエビはインド洋から西太平洋沿岸に広く生息しています。 | ||
◆固有種へ | ||
川と海を行き来する動物の中で、小笠原にしかいない固有種にまで進化をとげたものがいます。例えば、オガサワラヨシノボリ、オガサワラモクズガニです。彼らの仲間は、ユーラシア大陸や日本列島、琉球列島に分布しています。小笠原にやってきた彼らの祖先は、いつの日か故郷との交流を失い、長い年月をかけて小笠原にしかいない種へと種分化したのです。 | ||
オガサワラヨシノボリ♂ | オガサワラモクズガニ | |
オガサワラヨシノボリ♀ | オガサワラコテナガエビ | |
◆海域から淡水域へ | ||
固有種へと進化した陸水動物の中には、更に特殊化した種類がみられます。オガサワラヌマエビ、オガサワラカワニナの2種は、もう海域を必要とはせず、河川の中だけで一生を送ることができます。 |
オガサワラヌマエビ | オガサワラヌマエビの暮らす川 | |
オガサワラヌマエビは、大きな卵を産みます。これは、このエビが河川で一生を終えることを意味しています。世界の海洋島に生息するエビの中で、河川の中だけで一生を終える種は、オガサワラヌマエビだけです。 オガサワラカワニナは、トウガタカワニナ科のタケノコカワニナ属というグループに含まれる巻貝です。タケノコカワニナの仲間は、汽水域を中心とした低地河川に生息しており、これは浮遊幼生が海に降るためと考えられています。 ところが、オガサワラカワニナは淡水域のみに生息しており、汽水域からはみつかっていません。そして、その生息域の上限は、標高250mの源流にまで及びます。オガサワラカワニナには浮遊幼生期があるものの、淡水水槽で飼育するとどんどん数を増やすため、淡水中で生活できることがわかりました。 |
オガサワラカワニナ | 大型個体 | 遡上するオガサワラカワニナ | |
浮遊幼生期を持ち、淡水中で一生を過ごすことができ、標高の高い源流部にまで生息するという生態は、世界中に分布するトウガタカワニナの仲間の中で、オガサワラカワニナだけに知られる特徴です。 |
◆陸水動物たちを未来に残すために・・・ | |||
父島には、ヌノメカワニナという外来カワニナが定着しています。ヌノメカワニナは、観賞魚の水草などに付着して、全世界に広がりました。父島の河川では、護岸工事を行うことで、ヌノメカワニナの生息地が拡大しています。ヌノメカワニナが高密度に生息する地点では、オガサワラカワニナが見られなくなる現象が生じている事が、私たちの調査で明らかとなりました。 | |||
ヌノメカワニナは、単為生殖という繁殖を行うため、たった1個体からでも増殖できます。 |
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ヌノメカワニナ |
陸水動物は、地味で目立たない存在です。しかし、遙か遠い場所から小笠原にたどり着き、そしてこの島の自然に適応して今日まで生き残ってきたユニークで素敵な生物です。いつまでも、この島の水が清らかで、陸水動物たちが生息し続けることを私たちは望んでいます。