オガサワラオオコウモリ

オガサワラオオコウモリは、小笠原諸島で唯一の固有哺乳類です。小笠原諸島全体に生息しています。現在の推定個体数は200〜300頭程度と考えらており、絶滅が心配されています。
国指定天然記念物. 国内希少野生動植物種

小笠原群島:父島=推定150頭以上〜
      母島=推定数頭
火山列島:南硫黄島=推定100頭〜
     北硫黄島=推定数十頭
     硫黄島=推定数頭。 
 ※北硫黄島、硫黄島、母島では絶滅寸前の可能性があります。
  各島間の遺伝的情報については、現在研究中です。 

●生態

 翼を拡げると80〜90cm。体重は400〜550g 程度。南硫黄島以外ではほぼ夜行性です。全身が黒色の毛で覆われ、白銀の毛が交じります。腰部には特徴的な長毛があります。植食性で、果実、花粉や蜜、葉を食べます。水分のみを飲み込んで、繊維質はペレットとして吐き出します。冬期には集団化して森林内に「ねぐら」をつくります。この集団ねぐらは、繁殖に関係がある大切なものであることがわかってきました。地上捕食者のいない海洋島で進化したために、外敵に対する警戒心が低く、外来の地上捕食者に対して無防備です。

保護された亜成獣(♂) ペレット(集めたもの)

 小笠原で唯一の固有哺乳類であることに加えて、樹木種子の運搬、花粉の媒介など、小笠原の森林を育む大切な役割があると考えられています(とくにタコノキや、ムニンノキなどの大きな種子には不可欠なパートナーでしょう)。現在、小笠原群島では、外来植物の排除が進んでいます。オオコウモリは、外来種を排除した後で固有の種子を運ぶ「自然再生の担い手」なのです。幸運にも生き残ってきた父島のコウモリたちが、ほかの島々に分散できるように、まずは、父島の個体数が増えていくことが大切です。

●未来へ残すために

 父島では、冬期集団ねぐら域の林が、どんどん小さくなり、虫食い状に分断化が進んでいます。オオコウモリを未来に残すためには、大切な(=繁殖に関係がある)冬の集団ねぐらがつくられる森林や、周辺の環境を、これ以上、減らさないことが最も重要です。なお、近年、鳥獣保護区等の指定も進んでいますが、ねぐら域周辺は民有地が多いため、実効性のある保護をするためには、大切な地域の公有地化が不可欠です。

調査捕獲した個体(南硫黄島)  人工ネットへの絡まり事故は最大の脅威。ただし、農業問題としてのアプローチは、費用対効果が対処の限界値となるため機能しない。保護施策を農地、集落地等でも展開する必要がある。

 また、なによりも周辺の農業者、土地所有者に対する、共生のための支援策が不可欠です。オオコウモリと共存をしようという人々や、取り組みが評価され、支援されるような具体的なしくみなしには、オオコウモリの保全は実現できません。

 地域全体でオオコウモリと共生していくためのハード(総合的な行政施策)と、ソフト(地域や個人の智恵、工夫)が重要です。オオコウモリと共に暮らす人の生活もまた守られなければ、オオコウモリを守ることもできないのです。

 小笠原の森の守り神でもあるオガサワラオオコウモリ。
未来の森のために、その森で暮らす多くの生物達のために
オガサワラオオコウモリが飛んでゆく島の夜空を 残したいものです。

  ◆◆◆もっと詳しく知りたい方へ◆◆◆

鈴木創・稲葉慎 空飛ぶ森の守り神と島々の未来
—オガサワラオオコウモリの生態と保全策—.
生物の科学 遺伝64(4), 61-67(2010)