ヒメトビケラ類の分類学者である伊藤富子さん(北海道水生生物研究所)、分子系統解析を担当された菅原弘貴さん林文男さん(東京都立大学)と当研究所の共同研究成果が、学術雑誌Zootaxaに掲載されました(https://doi.org/10.11646/zootaxa.5231.2.2)。
トビケラ、カゲロウ、カワゲラの仲間は“川虫”の御三家と呼ばれる代表的な水生昆虫です。世界の河川や湖沼に多種多様な種が生息し、水質を評価する指標生物でもあります。しかし、淡水生物ゆえに絶海の海洋島小笠原に定着できた種は限られ、カゲロウとカワゲラは皆無、数種のトビケラが知られるのみでした。今回、そのうちの1種のオガサワラヒメトビケラにそっくりな新種が一挙に5種見つかりました。
トビケラの成虫はガに似ていますが、羽は鱗粉の代わりに細かい毛が密生し、可愛らしい姿をしています。特徴的なのは水中生活を送る幼虫で、筒巣(つつす)という寝袋のような巣を背負っています。筒巣は幼虫が糸を吐き、水中の砂粒、落ち葉、藻類などを紡いで作ります。その素材・形は種によって様々で、時にその秀逸な自然美に圧倒されます。
これまで小笠原諸島の河川からは多くの固有種が発見されてきましたが、いずれも祖先種が隔離された後に単一の固有種へと種分化した事例でした。しかし、オガサワラヒメトビケラ種群は、小笠原諸島内で複数の固有種に分化したことが突き止められた最初の陸水動物で、また形態も生息環境も特異的な変化が生じています。詳しい内容を知りたい方はぜひサイドメニュー「1.小笠原の生物」より和文要約をご覧ください。