アカガシラカラスバト



■生物学的情報

 アカガシラカラスバト(Columba janthina nitens )は、小笠原諸島に分布する固有亜種である。体重は400g程の中型のハトで、雌雄同色で、基調は黒色だが首と胸まわりが緑紫色の金属光沢を帯び、頭部が光沢のあるピンク色をしている。生息数は小笠原群島では40〜60羽、南硫黄島では数十個体程度と推定されており、国内で最も絶滅が危惧される鳥類である。生態についてはまだ不明点が多い。

 小笠原群島内で頻繁に島間を移動し、広い行動圏を持つ。ただし小笠原群島と硫黄列島間の交流については不明である。開けた場所に出ること稀で、樹林内で地上採餌していることが多い。餌のほとんどが種子および果実で、固有種(11種)、在来種(7種)、栽培種を含めた外来種(11種)の合計29種が確認されている。冬期は、アコウザンショウとシマホルトノキの落果種子の利用度が高い。

 繁殖期は、父島列島では10月〜3月頃にかけてで、繁殖域に雌雄が集まってくる。現在、継続的な繁殖利用が確認されているのは、父島中央部の東平・中央山周辺である。繁殖初期には雄が樹上で「クルウ〜ウ、クルウ〜ウ」という低い声で鳴く。営巣は地上巣が多く、密生したタコズル群落の中に小枝を積んだ簡易な巣を作る。産卵数は1卵で、雌雄で抱卵する。孵化日数は20日間で、ヒナはその後約1カ月半ほどで巣立つ。非繁殖期(4月〜9月)では農地を含めた広範囲な地域において目撃されるが、この時期の生息環境についは殆ど把握されていない。

  
地上を親の後を追う幼鳥 巣中のヒナ

■保全課題および対策

 地上性の捕食者のいない海洋島で進化したためか、主な採餌や営巣・子育てを地上で行う習性があり、また外来動物に対して警戒心が欠如している。現在、父島、母島、硫黄島では山域に多数のノネコが生息している。ネコ被害と思われるハト死体が発見されており、その危険性は大変高いと考えられている。クマネズミと種子など餌資源を競合しており、その影響が懸念されている。なお、電線衝突等の集落地の事故例が報告されているが、その頻度は低い。

 これらの知見を踏まえて、2008年にハト保全のための国際ワークショップで個体群モデリングを実施したところ、現状では本種は絶滅する可能性があることが示され、早急に山域全域におけるノネコを完全排除することが、最優先の絶滅回避のための保全対策であることが提言された。最重要な繁殖地である父島の東平・中央山周辺域では、2005年より作業期間と区域を限定したノネコ捕獲作業が実施されてきたが、2010年6月からは父島全域での捕獲作業に展開している(詳細はネコ舎ページ参照)。

   山域徘徊中のノネコ 食害された種子
山域に徘徊するノネコ クマネズミに食害されたシマホルト種子