海鳥と外来種対策

海鳥と外来種対策


 海鳥は、海洋から陸上生態系に栄養を運ぶ栄養循環の役割を担っている。しかし海洋島の海鳥は地上性捕食動物に対する対抗手段を進化させていない。当研究所の調査により、外来種のネコやクマネズミが海鳥類に捕食被害を与えていることが判明し、その対策が着手されている。

■母島南崎の海鳥保護プロジェクト

 母島南崎に有人島最後の海鳥2種の繁殖地がある。カツオドリは地上営巣し、オナガミズナギドリは穴を掘り地下に営巣する。その繁殖地にネコが侵入して消滅寸前の危機に瀕していることが2005年に発覚した。東京都獣医師会によるネコ引き取り協力のもと、徘徊するノネコ排除に踏み込んだ。2006年にネコ侵入防止フェンスを母島住民とともに当研究所で設置し、2008年には環境省の保全事業に発展している。ネコ対策後、海鳥捕食被害は防止され、オナガミズナギドリの繁殖規模は年々増加し、2007年からは巣立ち鳥が見られている。ただしカツオドリの営巣活動は殆ど見られず、デコイ設置などの積極的な対策が検討されている。

  
   10年振りに巣立ったオナガミズナギドリ 2006年に設置したネコ侵入防止用フェンス

■東島の海鳥保護プロジェクト

 父島列島の東島は、小型海鳥のアナドリが1000組以上繁殖している国内最重要な繁殖地の一つである。2006年6月〜10月調査で、調査区(合計350㎡)内で卵が61個、成鳥が237羽の食害事例を確認した。調査区における同年の繁殖個体は皆無で、また繁殖前に飛来した成鳥も被害にあっていた。数十年以上も繁殖寿命があるアナドリにとって、繁殖個体および準備個体の損失は個体群にとって大きなダメージであり、この被害レベルは東島の繁殖群の消滅を引き起こすものと評価した。外来動物であるネズミ類が、海鳥類にこれほど深刻な被害を与える国内では初事例であった。小笠原群島では多くの島や岩礁を海鳥が繁殖場として利用しており、2007年に44カ所の島でクマネズミの侵入状況を調査したところ、その7割以上にネズミ類を確認した。小笠原群島レベルで海鳥の被害現状と危険性の情報が蓄積されたことに加えて、兄島等でクマネズミによる固有な陸産貝類の深刻な食害被害が判明した。これを受けて、2008年8月より環境省自然再生事業として、東島を含めた無人島でのネズミ類根絶対策が開始されている。2009年より東島でアナドリの繁殖が確認され、駆除事業が消滅寸前であった個体群の存続に間に合ったと言える。

  
   営巣中のアナドリ 調査区内で集めたクマネズミ捕食死体